アンチポデス

2022年5月19日記

鑑賞日:4月14日

【作】アニー・ベイカー
【翻訳】小田島創志
【演出】小川絵梨子
【美術】小倉奈穂
【照明】松本大介
【音響】加藤 温
【衣裳】髙木阿友子
【ヘアメイク】高村マドカ
【演出助手】渡邊千穂
【舞台監督】福本伸生

【出演】白井 晃、
高田聖子、
斉藤直樹、
伊達 暁、
亀田佳明、
チョウ ヨンホ、
草彅智文、
八頭司悠友、
万里紗

舞台:新国立劇場
 小劇場

演劇鑑賞Ⅰにも感想を書いている『タージマハルの衛兵』と同じ演出家の舞台なので観に行った。

『アンチポデス』、シリーズものの一作となっており、シリーズのテーマは「声 議論, 正論, 極論, 批判, 対話…の物語」だ。

このテーマを聞いたとき、ますます見たいと思った。今の時代の世界の混乱と争いと心の病を一気解決とまではいわないまでも、紐解きほぐすカナメと期待されるのが「対話」ではないだろうか? いかに「対話」を成立させるか、いかに「対話」が極上の体験になり得るか、誰にも問われているし、最大の関心事に思えるのだ。

といった観点から見ると、『アンチポデス』の舞台で7人の男と1人の女が一個のテーブルを囲んで話す話しは、「対話」とはそうそう簡単なものじゃないな、と改めて感じさせた。
まずもって、7人の男性に対して女性1人とは、随分とかたよっている。Twitterで言ってる人もいたが、世の中の縮図なのかもしれない。あるいは、性差へのこだわりを捨てているのかもしれない。

ここで当方の認識した劇の概要を述べる。

🔖テーブルを囲んでいる8人のメンバーは、自身の実際の体験を赤裸々に語り合うことで、新しいエンタメとなる物語を創出しようとしている。

🔖8人の中には記録係も入っている。彼は目の前にノートPCを広げ、皆の話を打ち込んでいる。

🔖この集まりは、とあるエンタメ界の大御所の指示。大御所自身は姿を見せず、その代理のような人物(映画監督?)を中心に、順番に自分の体験を語っていく。

🔖劇の序盤はかなり下世話で性的な話しが続く
🔖紅一点の女性にとってキツいシチュエーションに見えたが、この女性のネタもエグかったため男どもはドン引き。それにも気付かないかのように本人はニコニコしていた。

🔖途中、大嵐が来たりして(気候変動による終末現象?)、外の気配は不穏になっていくが、室内では物語が語られる。

🔖終盤になって、リモートで大御所があらわれ、皆が平身低頭し話しに聴き入る。しかし電波が悪く声がとぎれとぎれとなり、何を言っているのかほとんどわからない。ガピーガピー耳障りな中、皆は必死になって聴き取ろうとする。

🔖監督秘書の女性が用事のためにあらわれては消えを繰り返しつつ、自分の物語も語る。あぜんとするくらい他愛のない物語で、皆がリアクションもできずにいる中、本人は堂々としている。

🔖一人が、自分の体験を語る順番になって語り出したはいいが、「自分の物語を語っていると嘘を言っているような気がする」「物語にしたくない」など言い出し、呼び出されてそれきり消えた。

🔖最初に監督は「ここでは何を語っても構わない、何を言っても責められないし批判されない」と高らかに宣言していたのに、いざ非物語的なことを言われたら追放した、というわけだ。

🔖一人が突然、壮大な神話級の物語を思いついてペラペラと語り出す。皆それに感心し聴き入るも、記録係がパソコンに打ち込むのを忘れ、女性に指摘されて慌てて、最初から語り直してもらい、また記録を始める。

🔖しかしその神話級の物語も、近親相姦だなんだと風呂敷が広いだけでどっかで聞いたような陳腐な話しなのである。

といった感じで、なんかもう、笑ってしまうコメディな場面が多いのであった。
一例で言えば単なる性欲での行動を、修飾して物語りに仕立て自慢げに語る人々。けど、物語にしなければ他人に手渡すことはできないのが現実というやつだ。追放された男が「嘘を言っている気がする」というのは実際本当にそうなのだけれど、だからといってナマで手渡すことが、どの程度、妥当なことなのか?

それでも、あの人物を追放しちゃいけなかった、と思う。あの人物を追い出さず対話を続けたなら、何かが生みだされた気がするのだ。彼一人では無理だろうが、あのメンバーで対話していれば‥‥。

リンク

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海外の批評

海外でのキャスト 男女比はやはり同じだ

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