ジャンル・クロスⅠ新世界

2022年5月19日記

鑑賞日:5月1日

演出・振付: 近藤良平 / 演出補: 長塚圭史

出演:近藤良平 / 長塚圭史 / 入手杏奈 / 柿崎麻莉子 / 四戸由香 / 青井想 / サーカスアーティスト: 油布直輝、長谷川愛実、天野真志 / 切り絵師: チャンキー松本 / ミュージシャン: 岡田カーヤ、栗原務、鈴木井咲、西尾賢、リョコモンスター

舞台:彩の国さいたま芸術劇場

彩の国さいたま芸術劇場の芸術監督が4月から新しくなった。その記念すべき演出第一作が本作ということで、これは見ないわけにはいかない! と思いチケットをゲットした。

幕が上がって最初に出てきたのは空中ブランコ乗りだった。空中ブランコってやつは間違いなく視線を釘付けにする。なんせ危なくてハラハラドキドキするからだ。

ドキドキしながら「何だかこれはズルじゃないのか?」とちょっとイラっとした。ただ『新世界』は「ジャンル・クロス」という副題が付いている。つまり、俳優業のみならずクロスオーバーに異業種と協働する。

という意味だったんだな、と思い直した。

空中ブランコはじめサーカスには大きな特徴がある。と、子どもの頃、木下サーカスを見たわたしは思っている。「サーカスは実物を見なければ見たことにならない」という特徴だ。さすがの空中ブランコも、テレビやYouTubeじゃちっとも怖くないからだ。「テレビは違う。ダメだ。伝えられるものに限りがある」と幼な心で評論したものである。

空中ブランコ乗りはその後、他のみなと一緒になってダンスをし始めた。
舞台上の左端ではギター、ドラム、サックスなどなどの楽器が鳴って音楽を奏でている。この音楽演奏がクオリティ高くてかなり良い。これ、通常だったら(後述するバレエなどでも)、舞台の下で演奏するパターンじゃないのか? 
けどこの方々も、演奏ばかりしているのではなく、ダンスをしたりセリフを言ったりしていた。つまり、ジャンル・クロスだ。

この様子は、出演者同士が上下のヒエラルキーのないフラットなつながりを持っているのを感じさせた。なんせ、演出・振付の近藤良平、演出補(にしてKAAT神奈川芸術劇場の監督)の長塚圭史もいっしょになってダンスしているのである。本職のダンサーもいるが、そうでない人も踊っている。であるから、素人目に見ても、振り付けはさほど難易度が高くない。わりあい、誰でも(楽しく小学生でも)(なんならワタシでも)できそう! と思わせた。
たとえば、突然、腹痛のポーズになったり。一人が腹痛。そしていっせいにそろってみんな腹痛のダンス。
単純な動きだが、ハッとした。

特徴的なのは、舞台上に円形の舞台がしつらえてあることだ。丸い幕が左右に開いては色々なモノがでてくる。これがなんとも楽しいことになっている。劇中劇でもあり、劇(ステージ)自体がテーマである事を伺わせる。幕が開いて巨大な金属の輪ッカがグワングワンと廻転していたのは度肝を抜かれた。輪ッカはどういう物理法則なのかいつまでも廻っていて、廻って廻ってそのうち床で止まった。

その後、男がこの輪ッカに入って廻り出す、というサーカス芸を披露するのである。

あとで調べたらサーカス芸ではなくシンホイールというスポーツで、そう簡単にやれるものではないようであるが、これ、自分ができたらメチャクチャ楽しそう!! に思った。

難易度の高くない振り付けと書いたが、そればかりではなく、本物のダンサーが凄いダンスも踊っていた。
また、空中でダンスを踊る人もいた。華麗に踊り、まるで昇天(死んだ?)したかのように、さらに上へ上へと昇っていくシーンは綺麗だった。

いくらフラットな関係といっても、自分の好きなもの、得意なものを思い切り表現できなければ、それは抑圧でしかない。
得意なものを思い切り追求し、表現する。下手な人と同じにやることはないのである。
人は弱い生き物だから、素晴らしい人、上手な人、輝いている人を見ると嫉妬したり、焦燥感にかられる。
それはそれでしょうがない。
両者を止揚し慰撫するのが「私はあなたから生まれた」かもしらん。

切り絵で表現された戦争の話しも唐突に感じたけれど、切り絵師のこの方がどうしても今、やりたいことなんだろうと、感じた。
どうしても今、切って貼って話したいことなんだろうと。
今やりたいことを、今やれる。その自由があったように思った。

あとでTwitterで見たら、
3回しかない公演のうち、2回目は物議をかもす内容だったようだ。
オーディエンスのフィードバックを受けて3回目はその箇所を変更したらしい。
2回目を自分が見たらどう思ったのかは、見ていないので分からない。
分からないが、フィードバックの内容も、受けとって変更したことも、間違ってなかったと思う。

なぜなら、わたしの見た3回目の公演はすばらしい出来だったから。

最後の音楽の余韻で感動したのもあるけれど、『新世界』という大きなタイトルに恥じない内容になっていたし、確実にメッセージを感じ取った。

劇が終わって万雷の拍手になったこともとても嬉しかった。人生史上一番長くて熱い拍手だったかもしれないくらい。

他の観客の人も、わたしと同じ気持ちなんじゃないか、わたしと同じように「フラットであり、同時にデコボコと険しいこの新世界を生き抜いていこうではないか。ブラボー💖」

と、思ってる気がした。

彩の国さいたま芸術劇場の写真.与野本町下車、徒歩10分なり

リンク

🔖新芸術監督・近藤良平が描く彩の国さいたま芸術劇場の未来予想図とは?|美術手帖
🔖長塚圭史 – ステージナタリー
🔖入手杏奈がレクチャー、冷えた身体を温めるストレッチ | カラダは正直~わたしの日々の磨き方~ Vol.5 – ステージナタリー
🔖柿崎 麻莉子 | Mariko Kakizaki
🔖四戸由香
🔖青井 想 | あかりのプロダクション
🔖油布直輝 – YouTube
🔖長谷川愛実 HASEGAWA AIMI – aimi-hasegawa ページ!
🔖天野真志
🔖切り似顔絵師 チャンキー松本 – 切り似顔絵師 チャンキー松本
🔖karrimor カリマー | どこ行くの?Vol.8 岡田カーヤ(編集・ライター・音楽家)
🔖(1) 栗原務(@shine_coda)さん / Twitter
🔖いい加減酔いすぎじゃないの!?  ~鈴木井咲の絵空ギター日記~
🔖NISHIO KEN SOBOBUKI INDEX2
🔖RYOCO Monster/リョコモンスターさんのプロフィールページ