amazonプライムで『ある男』みた!!

2023年7月2日日曜日

映画の感想を書く前に他人の「映画レビュー」を読むようになったのはいつからだろう?

たぶん数年前に娼年のカスタマーレビューを読んでからだと思う。この映画は少年娼婦の松坂桃李が、女性の多様な性の欲望を受け止めながら自身も成長していくという、ある意味あたたかく、他の意味ではエロチックな期待で胸の膨らむ映画であった。

のだけど、実際に見てみると呆然とするほど期待外れであった。なるほど、扱われてこなかったテーマであるから、そこは斬新だし、主演を引き受けた松坂氏も貪欲に役に挑戦する人だ。だがやはり、どうも違うと思った。

ところが、これのレビューを見たら悪評はさほど多くはなく、むしろ理解を示されていた。中でも、女性か男性かは忘れたが、こう書いている人がいた。「この映画を批判できる人は、幸福な人生を生きてきた人だ」。

ちょ、ちょっとまて。あたしって幸福な人生を生きてきたから批判してる?
いやまさか。でもわからない。そういう面もあるかもしれない。
これにはけっこうひるんだ。

どうすればいいのだろう? わからない。が、とりあえず、人の思ったことや感じたことを確認してみようと思ったのだ。同じことを思った人がいると頼もしくなるし、「どこをどう受け止めればそう思ってしまうのか?」となるやつもある。いろいろあってオモシロい。

映画『ある男』☆☆☆★★3.0

冒頭と最後にマルグリットの「複製禁止」が意味深に登場するけど、なぜそこで出てくる絵が死刑囚の子であるゆえに苦しみ抜いた「谷口大祐」の描く絵でないのか、あるいは父である死刑囚が描いた絵でないのかが、わからなかった。
まったく理由がわからない。
なんでマルグリットなのか、マルグリットなんかこの際どうでもいいだろう。マルグリットが出てくると何か映画に高級感でも加わるのか?

といっても、この絵がマルグリットの「複製禁止」であることなど、わたしは知らなかった。後で検索していて偶然知った。

マルグリットの絵に、「谷口大祐」なり、父なりが影響を受けているエピソードがあるならわかるのだ。ところが全然ちがうし画風も違う。そういえば、顔をかき消す奇妙/不穏な絵はマルグリットも描いたかもしれない。しかし、顔をかき消す絵を描いた動機は、マルグリットと「谷口大祐」とその父では違うのじゃないか。

こんな感じのちぐはぐな印象は随所にある。一番は、どうして伊香保温泉の宿屋の次男坊が、兄貴と折り合いが悪い程度のことで戸籍を変えるのか? しかも、あんな可愛いすばらしい彼女がいるのに。この次男坊、セリフはひとつもないけど演じるのは「太賀」である。ちなみに可愛いすばらしい彼女は「清野菜名」である。なんて笑顔のステキな女性、格が違う、と以前から思っていたが、今回もその通りであった。せっかく安藤サクラが女優としての天性の輝きをいぶし銀に変えて地味な女性を演ってるのに、菜名、ステキすぎないか。まぶしくて目を細めたわ。せめて温泉宿で半分売春させられているやさぐれ女、みたいな感じなら納得も多少できたのだが。

当然、伊香保温泉の宿屋の次男坊も「ある男」なのだ。が、その「ある男」性が見えてこない。「谷口大祐」が戸籍を捨てるにいたった経緯に比べて軽すぎないか。いっそこの男こそを「在日三世」設定にするんじゃダメだったのか。その方が役者たちの演技が生かされたと思うのだが。弁護士を「在日三世」設定にするの、どういう意味があるのだろう?

しかもこの弁護士、とんでもない迫力で役者としての底力を見せつけた柄本明に「先生、あんたは何もわかってませんな」とブッ刺されてしまう。
「在日三世」なのに、日本社会の裏表に精通した男に「何もわかっていない」と言われるなら、観客にはもう何もわからない。いやさ、何をわかればいいのか? それともこの弁護士は「在日三世」とはいってもエリートだからわからない、というスジのことなのか? ここらへん、制作者ならわかっているというのか? ハッキリ教えてもらいたいものだ。

そんなで、事のついでみたいに「在日三世」「ヘイトスピーチ問題」が出てくるの、どうかと思う。

確かに、妻夫木聡にしてみれば「在日三世」設定があることで山場を作りやすくなったかもしれない。そうでないとこの弁護士、特徴がない。原作だと、この弁護士の一人称なので、いやでも弁護士に感情移入しながら進行するのだが。
ただ、わたしは、妻夫木聡も特徴のない男をたんたんと演じればよかったと思う。むしろ、そっちを見たかった。妻夫木聡の「ある男」性が浮かび上がる姿を見たかった。

「谷口大祐」を演じる窪田正孝は、ボクサーとしての身体の作り込みといい、犯罪者の息子の心理描写といい、真に迫りすぎていた。【俳優向け】「心のロックの外し方」とは?みたいに、心のロックを外しての演技なのだとしたら、もどってこれるのか? と心配になった。そんな心配をさせるのは本意ではないだろうが。

そんな「谷口大祐」を、カメラは比較的遠くから撮っていたのを好ましく感じた。「ある男」の浮遊感と、つかめそうでつかめない感じが出ていた。

「谷口大祐」を慕う子どもの演技とセリフが良い。ウン、そこに尽きるよね、という落とし所ではあるのだが、それを信じない制作者が余計なデコレーション(真木よう子の不倫LINEとか)で飾り立てたのは、見なかったことにしよう。

 

余談:結婚しただけでほぼ勝手に苗字を変えられてしまうのが日本女性。つまり、国から極端にアイデンティティを軽視されている存在。戸籍がどうのと言われても、なんだかなーというのもある。

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